京マチ子はなぜ『黒い十人の女』に出演しなかったのか

黒い十人の女 予告篇 映画史には無数の“if”がある。「もし、あの企画が実現していたら……」「もし、あのキャストが実現していたら……」。死んだ子の歳を数えることの虚しさは承知の上で、そうした空想に耽ることも映画の面白さのひとつだろう。その意味で、先…

『私は二歳』 幼児とスタンダード・サイズ

Trailer 私は二歳 (1962) 育児書は映画になるか この世に映画にならない題材などない――この傲慢にも思える思想を実践してきたのが、市川崑と和田夏十による夫婦コンビである。彼らが監督、脚本を手がけた作品の中でそれを実感したのは、おそらく三島由紀夫の…

『柄本家のゴドー』☆☆☆★★

映画『柄本家のゴドー』予告編 十数年前のある夜、中央線沿線のミニシアターでピンク映画のオールナイトを観ていた。何本目だったか、場内が暗くなって上映が始まる直前に中年とおぼしき男が隣に座った。おそらく、終電を逃した男がオールナイト上映を見…

『時をかける少女』をめぐる映画監督たち

細田守と大林宣彦の奇縁 今のところ9回にわたって映像化(そのうち映画は4回)されてきた『時をかける少女』だが、最初の映画化となった大林版『時かけ』(83)が与えた影響は絶大である。大きすぎると言っていい。実際、細田守版は、いかに大林版からの呪…

『マルサの女』(第2回) 伊丹映画と幻影の撮影所

伊丹映画のエロス、原点はロマンポルノにあり 伊丹映画と言えば、かつてはゴールデンタイムの映画番組では、ジブリ、『男はつらいよ』シリーズと並ぶ定番だった。特にフジテレビ系列の『ゴールデン洋画劇場』での放送が多かったと記憶するが、筆者は小学生の…

『マルサの女』(第1回) 金と流行語と女

映画監督・伊丹十三 伊丹映画と若い世代に言っても、伝わるかどうか心もとない。伊丹十三が亡くなってから20年が過ぎると、『あまちゃん』の夏ばっぱや『ひよっこ』の鈴子を演じる宮本信子の夫が伊丹十三だと説明した方が通りはいいかも知れない。 伊丹映…

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(第2回)たった一本の映画でその名を刻む伝説の映画監督になるには?

唯一無二の作品を撮ってしまった映画監督のその後 企画開始時に22歳、公開時は25歳だった監督の山賀博之。8mmの自主制作アニメという実績のみで、製作費8億円の劇場用長編アニメーションを監督するという壮大なプロジェクトを終え、興行こそは大きく振るわ…

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(第1回) なぜ24歳の若者が劇場アニメーションの監督になることができたのか?

24歳の若者が製作費8億円の劇場用アニメの監督に 映画監督になる相応しい年齢はあるだろうか? 日本を例にとれば、映画黄金期の1950年代前後は、撮影所の時代である。大手映画会社の撮影所で助監督として数年間実績を積み重ねて、監督になる。年功序列な…

『タンポポ』(第2回) 伊丹映画のハリウッド進出顛末記

アメリカでヒットした異色の日本映画 伊丹十三のデビュー作から3作目までの絶好調ぶりを、『キネマ旬報』のベストテンのランキングと、配給収入の数字から見てみると以下のとおり。 『お葬式』(『キネマ旬報』ベストテン1位/配給収入12億円) 『タンポ…

『タンポポ』(第1回)最も作りたかった映画を撮るために

youtu.be 伊丹十三がいちばん作りたかった映画 初監督作『お葬式』(84年)で、一躍映画監督として脚光を集めた伊丹十三。それまで『北京の55日』(63年)などの海外の大作に出演する国際俳優、エッセイスト、テレビタレントとして知られてきたが、日本では…

〈俳優・坂本龍一〉の軌跡 (第2回)

幻の主演映画『ハリウッド・ゼン』 『ラストエンペラー』以降の坂本龍一の俳優活動は、現段階では『ニューローズホテル』(98年)のみである。この作品で坂本は、銀縁眼鏡で冷徹な大企業の役員を演じているが、顔出し程度の役で特筆するほどではない。それよ…

〈俳優・坂本龍一〉の軌跡 (第1回)

俳優・坂本龍一の誕生 youtu.be 坂本龍一の40年に及ぶキャリアの中でも、特筆すべき項目のひとつが、『ラストエンペラー』によって第60回アカデミー賞作曲賞を受賞したことだろう。 エンニオ・モリコーネをはじめとする映画音楽の巨匠たちが、監督のベルナ…

『映画評論・入門!』番外編「映画評論事件史 淀川長治差別発言事件」

淀川長治差別発言事件 映画評論・入門! (映画秘宝セレクション) 作者: モルモット吉田 出版社/メーカー: 洋泉社 発売日: 2017/05/09 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 5月9日に発売となる拙著『映画評論・入門!』(洋泉社・…

『シン・ゴジラ』を読み解く前に―庵野秀明旧作より

『GAMERA1999』 『ガメラ3 邪神覚醒』(99)公開前にビデオ発売されたメイキングだが、総監督の庵野秀明はこの時期、次なる展開としてドキュメンタリーか特撮を手掛けると目されており、その前哨戦としても注目を集めた。『ゆきゆきて、神軍』(87)、…

『ロッパの水戸黄門』と『古川ロッパ昭和日記』(1)

『ロッパの水戸黄門』の発見 このところ、古川ロッパを目にする機会が多い。去年出た『哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和』(山本一生・講談社)という評伝に始まり、今年に入ってから『ロッパ食談 完全版』『ロッパ随筆 苦笑風呂』(河出文庫…

『愛の渦』☆☆☆★

監督/三浦大輔 脚本/三浦大輔 出演/池松壮亮 門脇麦 2014年 日本 ビスタ DCP 123分 演劇空間を映画空間に置き換えるために 劇団ポツドールを主催する三浦大輔の第50回岸田國士戯曲賞受賞作『愛の渦』は、ネットを見てマンションの一室に集まった年も境遇…

『小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム 名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台』

老いたガイキチもやはりガイキチを知る 小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム 名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏 作者: 小林信彦,萩本欽一 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2014/01/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 生きていると、い…

『小さいおうち』☆☆☆★

監督/山田洋次 脚本/山田洋次 平松恵美子 出演/松たか子 黒木華 倍賞千恵子 2014年 日本 「小さいおうち」製作委員会 ビスタ 136分 隠された性と、隠されなかった現代への暗喩 山田洋次は日本で最も恵まれた映画監督である。82歳を迎えて、2年に1本のペ…

『ゲゲゲの女房』☆☆☆★★

映画で漫画家を描くには…… 鈴木卓爾監督の長編第2作『ゲゲゲの女房』は、かつての日本映画にあった、そのドラマチックな顔立ちこそを映画と呼びたくなるような女優に匹敵する魅力を持つ吹石一恵を余すところなく映しだした映画である。前作の『私は猫ストー…

『ライブテープ』☆☆☆★★★

演出/松江哲明 構成/松江哲明 出演/前野健太 DAVID BOWIEたち 長澤つぐみ 2009年 日本 カラー 74分 池袋シネマ・ロサ 松江哲明がライブ映画の傑作を撮った。 今年、既に『ドキュメント・メタル・シティ』を発表し、『あんにょん由美香』やその他の新作も…

『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』☆☆☆☆

監督/若松孝二 脚本/掛川正幸 出口出 大友麻子 出演/坂井真紀 伴杏里 地曵豪 大西信満 中泉英雄 桃生亜希子 並木愛枝 ARATA 坂口拓 小倉一郎 2007年 日本 カラー ビスタ 190分 1970年前後に『テロルの季節』『性賊 SEX JACK』『天使の恍惚』など、現実よ…

『性の放浪』☆☆☆★

監督/若松孝二 脚本/出口出 (足立正生 沖島勲) 出演/山谷初男 新久美子 水城リカ 小水一男 沖島勲 1967年 日本 若松プロダクション モノクロ シネスコ 78分 この作品への予備知識は少ない。若松の著書『俺は手を汚す』と、足立正生の『映画/革命』*1な…

『一万年、後....。』☆☆☆★

『一万年、後....。』(映画美学校第一試写室) ☆☆☆★ 2007年 日本 YYKプロダクション カラー ビスタ 77分 監督/沖島勲 脚本/沖島勲 出演/阿藤快 田村勇馬 遠藤恵里 下杉一元 松川新 洞口依子 『YYK論争 永遠の“誤解”』から8年ぶりとなる沖島勲の新作が…

『夜にほほよせ (SEX予備軍 狂い咲き)』☆☆ 

監督/林静一 脚本/林静一 出演/かしわ哲 葉山るゐ 流滝人 市村譲二 1973年 日本 若松プロ カラー シネスコ 63分 1973年製作の本作だが、前年は若松孝二にとって、60年代の怒涛のピンク時代の総括とも言うべき年だったと言える。1972年は、「天使の恍惚」…